神様未満

「神様になれたらよかったのにな」
 迅の表情は見えなかった。くったりと上半身をテーブルに投げた迅のとなり、嵐山はかけるべき言葉をすぐには思いつけなかった。
 真夜中のラウンジで、眠気覚ましの珈琲をふたりで飲んでいるところだ。いつもの喧騒はどこにもない。会話を聴けるような距離には誰もいなかった。
「……俺は、迅が神様じゃなくてよかったと思う」
 すこし悩んでから嵐山がいうと、「そう?」と迅がこたえる。へらりとわらったような声だった。
「迅が神様だったら、きっと友達になれなかっただろ」
「そっかぁ」
 やっぱりへらりとわらった声は、そのあと少しだけくぐもった。
「じゃあ、神様じゃなくてよかったな」
 神様でも友達になったよ、なんて。もしかしたらそう言ったほうがよかったのかもしれないけれど、嵐山はやっぱり、神様じゃない迅悠一のことが好きだった。


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