さりとて世界はまわる。

 この目が未来を映さなくなったなら。
 ひとりきりの部屋で天井を見つめながら考えていた。もしも未来が視えなくなったら。トリオンは加齢とともに成長を止める。そして加齢とともに衰退しないとも限らない。サイドエフェクトが失われる未来は今のところ視えないが、その可能性がないとは誰にも言えない。未来は無限に広がると――いやそれはほんとうのところ無限ではなく、必ず通過しなければならない点があることは往々にしてあるのだが――迅は知っている。
 未来が視えなかったら、ではなくて。視えなくなったら。
 ときどき煩わしいと思うこの目も、失ってしまえば惜しくなるのだろうか。それとも清々したと笑うのだろうか。
 暗闇に目を凝らしてもそこに答えはなく、ため息をつくと古いベッドのスプリングが軋んでちいさな悲鳴をあげる。
 迅は、サイドエフェクトを失っても、だれかから必要とされる己でいられるのだろうか。だれかを守れる己でいられるのだろうか。あるいはもしかしたら、ようやく、だれかひとりを護れる己になるのだろうか。
 便利で、けれど不都合なサイドエフェクトは何も応えなかった。ふぅ、とゆるやかに息を吐き出して、そっと瞼を閉じる。すこしばかり諦めていた。いろいろなことを。かつて憧れていた当たり前というやつを。だってどちらにしろ――迅が未来を視ても視なくても、世界は理不尽にまわるのだ。


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