つぶれたあわ

 わたしがそれをかたちにしたのは、まさしく、酔ったいきおいだった。居酒屋のうすい酎ハイのかすかなアルコールに身を委ねたのは、すこし自棄になっていたから。あおい空を飛ぶ鳥を見上げるときの、どこかとおくのだれかをおもう、彼の横顔を、よく知っているから。
「すきなひと、いるの?」
 すべりおちたことばは戻らない。喧騒が声を掻き消してくれるなんて幸運もなく、となりに座った犬飼くんはぱちりとあおい目を瞬かせた。
「すきにならなきゃよかったって今も思ってるよ」
 彼はいつもとおんなじようにわらって、ずいぶんと泡の潰れたビールを煽った。にがい酒の味にも、彼はわらったままだったから――それはまだ、彼の胸のなかにあるのだろうなと思った。


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