「つよくなるコツってなんですか」

「つよくなるコツってなんですか」
 わたしが訊ねると、太刀川さんは「んー?」と餅を伸ばしながら答えた。太刀川隊の作戦室に年中買い置きしている角餅をトースターで炙って、砂糖醤油をつけて海苔を巻いて、太刀川さんはいつもおいしそうに食べる。ぷつん、と薄くのびた餅の端が切れて、太刀川さんはもぐもぐと咀嚼しながら座卓のうえの湯呑みに手を伸ばした。
「なに、強くなりたいの、おまえ」
「なりたいですよ。ボーダーに入ったからには」
「まあたしかに弱いもんなー、みょうじは」
 ぷはっ、とお茶を飲み干した太刀川さんが笑う。このひとから見れば隊員のたいていは弱いに決まっている。太刀川隊の隊員である出水の同級生という理由でほかの人よりすこしばかり親しんでいるけれど、わたしの実力では太刀川さんの足元にもおよばない。だから無遠慮な言葉にも心は揺れず、重ねて問いかけた。
「太刀川さんってどうしてそんなにつよいんですか」
「慣れだ。あとセンス、度胸。ちゃんとやってりゃ強くなるシステムって、色んなやつが言ってんだろ」
「でも、時間をかけずに強くなるひとだっているじゃないですか」
 同期で入隊したはずの同級生は、もう、A級部隊の一員だった。
「だからそういうやつはセンスがあんだよ。階段とばしてのぼれたり、駆け足でのぼれたりする。おまえには無理」
 ふたつめの餅にかじりつきながら太刀川さんが言った。いまはたまたまふたりきりで、その行儀の悪さを指摘する人はいない。
「やっぱり、無理そうに見えますか」
 声が沈んでいたことには驚かなかった。自分でも思っていた。わたしは、ほかの人たちのように強くなれない。
「勘違いすんなよ。時間をかけずに強くなるのは、って言ってんだ」
「じゃあ、時間をかければ強くなると思いますか?」
「は? なんだよ。強くなりたいんだろ、みょうじは。なら強くなれよ。時間かかっても」
 太刀川さんの声に苛立ちのようなものが混じったのは、怒っているというよりはわたしの言っていることがまったく理解できないという雰囲気だった。「そう、でした」顔を俯かせれば、瞳にじわりと熱がたまる。そうです、そうでした。知らないうちにうらやんで、妬んでしまう自分がいやで、諦めるほうに流されていた。
「ま、個人戦はいつでも付き合ってやっから」
 ぐしゃりと髪をかき混ぜたのは太刀川さんの大きな手だ。優しくない、雑な手つき。けれど不思議とあたたかくて、ちょっとだけ笑みがこぼれた。それから、これはさっきまで餅を持っていた手だった。
「……太刀川さんとの個人戦は、やです」
「なんなんだよ」
 拗ねたような声に、「もうすこしつよくなれたらお相手をお願いします」とささやいた。


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