あ、水がない。

 あ、水がない。お風呂上がり、冷蔵庫の前でしくじったと舌を打つ。時計を見る、まぁギリギリセーフだろう。髪の毛をドライヤーで乾かして、ジャージにTシャツ、徒歩三分のコンビニへ。がちゃりと扉を開けたら、かつりと足音。
「あ」
「んだよ、どっか出掛けんのか?」
 隣の扉の前、鍵を持って佇む諏訪さんはどうやら今帰ってきたらしい。お酒の匂いが風に乗ってふんわり届く。
「ちょっとコンビニまで」
「へぇ」
 何となく気まずくて、そそくさと隣を通り過ぎればかつりとついてくる足音。
「諏訪さん?」
「俺もコンビニに行く用事思い出したんだよ」
「コンビニの袋持ってますけど」
「うっせぇ、買い忘れたんだよ、悪ィか」
「……諏訪さん、優しいですね」
「ンなんじゃねぇって言ってんだろ自惚れんなバーカ」
 口の悪さとは裏腹に赤い頬。指摘したら酒のせいだバカと切り捨てられた。

 無事に買い物を済ませて、部屋の前まで戻ってくる。結局諏訪さんの荷物は増えてない。ありがとうございますってお礼を言って、余分に買ったアイスを渡す。
「……おまえ、髪はちゃんと乾かせよ」
「はーい」
 そこですか、そう思いながらも頷いて、おやすみなさいと部屋の中に入った。
 火照ったほっぺは風呂上がりだからだ、って、きっと諏訪さんは思ってる。買ったばかりのペットボトルを押し付けて、中学のジャージはないわ、と溜息をついた。会うと知ってたらこんなの着なかったのに。


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