つまびらかにする

 つまびらかにする、という言葉がこれほど似合うひとを知らない。彼女の指先が頬を撫でる感覚にさらされながら思った。しなだれかかった身体は不思議なほどに軽く柔らかく、同じ女であることが信じられない。宝石のような砂糖菓子。華やかな彼女は大輪の花に例えられることが多いけれど、すみれの砂糖漬けのようなひとだと思ってる。
「もう、なにを考えてるの」
「べつに、なにも」
 酔っているのだろう、ということはわかっていた。顔色が変わらないから厄介だけれど、彼女がどれだけグラスを空けたのかは知っている。
 頬を撫でた指が、つぅ、と顎に沿って撫でる。耳の後ろへ、そこから首筋をそうっと。ひやりとした指先に縫い合わせた秘密が解かれていく気がした。
「ねぇ」
 加古望の声が耳元で掠れる。甘い毒というのは、たぶんこんな声をしているのだと思う。
「こっちを見てくれないの?」
 吐息とともに酒気が溢れる。ぞくりぞくりと背中を這うのはいっそ暴力にも近い劣情だった。すきなひとにいたぶられるようにふれられて、鎌首を擡げる恋とは呼べないなにか。
「つまんなぁい。なにか反応があってもいいんじゃないかしら。魅力がないのかも、って、自信なくしちゃうわ」
「……今日もかわいいね」
 心からの賛辞に彼女はくちびるを尖らせ、「そういうのじゃないのよ」と囁いた。

 しなだれかかられている私に気付いた諏訪さんが「どけてやろうか」と言ってくれたけれど、肩にふれる寝息にそっと首を振る。無邪気に秘密を暴こうとするあなたは今日も美しい。


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