すきだった、いまはもう。

 雨がトタンの屋根を叩いていた。錆びついた雨樋を伝って流れていく水を視線で追う。じわじわと靴に浸みだしてくる感覚が不快だ。靴の中でちいさく指を曲げれば、ぐちゃりとゆがむ。アスファルトからたちのぼる雨のにおいが鼻についた。雨宿りをふたりでしたときの。雨に紛れるような、ちいさな声が。訥々と、落ちたことばのひとつひとつが。いぬかい、そうよんだきみのこえを忘れてずいぶんと経つ。
「……あぁ、最悪」
 傘を忘れるんじゃなかった。付け足した言葉の白々しさに、ひとりでわらった。


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